観てレビュー「グラン・トリノ」 もうおじいちゃんだから、

特にネタバレがあるわけではないが、観てから読んだ方がいい。映画はできるだけ予備知識なしに観る方が楽しいからね。なんなら出演者さえ知らずに観たらなおいい。この映画でいうなら「白人のおじいちゃんと隣のアジア人家族の映画。」ぐらいがいい。


ぼくはクリントイースト・ウッドが好きだし、彼の出演した映画も監督した映画も好きだ。「荒野の用心棒」も「ダーティー・ハリー」も何度も観てるし、「ガントレット」は特にいい。後期の監督作品では「ミスティックリバー」が気に入っている。
なぜそんなことを書くかというと、「グラン・トリノ」について批判的なことを書こうとしてるからだ。
「ちょっと批判っぽいこと書くけど、嫌いで貶してるんじゃないからね。怒らないでね。」というわけだ。

彼のキャリアは娯楽作品から始まり、年を重ねるとともに社会的なテーマが増えてきた。
自分に残された時間を意識するようになり「世の中に何か意味のある仕事を残したい。」と考えるのは自然なことだ。尊重したい。

ただし、映画は主義主張のためにあるのではない。
そこのところでイーストウッドじいちゃんの作り方に異論がある。

そう思うところがいくつか。
ひとつは、モン族の不良グループの描き方だ。
イーストウッド演じるコワルスキーの隣家に、東南アジア出身の「モン族」の一家が引っ越してくる。
その一家の親戚にギャングまがいの不良グループがいる。その彼らをイーストウッドは「ワル」として類型化してしまっている。彼らからは生きてきた時間の積み重ねも葛藤も感じられないのだ。どこかの工場に「ワル」の金型があって、それでガッシャンとやって出来上がったみたいなマスプロ式の「ワル」になってしまっていないか。
キャラクターを単純化して「立てる」ことは物語に力を生む。ただし、どんなタイプの映画かによって自ずと制約がある。お気楽なアクションなら思い切って類型的なキャラクターにする方がいい場合もある。コスプレヒーローがいちいち人生に悩むのは鬱陶しい。
が、「グラン・トリノ」は人が生きるということに向き合おうとする映画だ。少なくともそういう顔つきをしている。「ワル」の役割しか与えられない単純化された登場人物に違和感がある。
イーストウッドじいちゃんは伝えたいことを優先したのだろうけれど、彼らに対してももっと注意深くあるべきだったんじゃないかと思う。

話題のラストも乱暴だ。
この映画についてのレビューの類を一切読んでいないから分からないが、今のところは批判はあまりないだろうと想像する。世間が歓迎ムードのうちはあまり批判は書かれない。だがしばらくすると、このラストについて疑問が呈されるだろう。
詳しくは書かないが、このラストは「狼よさらば」のチャールズ・ブロンソンがやったことと本質的に同じだ。「狼よさらば」は街のごろつきを、権利とか裁判とかの面倒を省いて撃ち殺してスカッとする映画だ。
「グラン・トリノ」は一見まるで違う描かれ方だが、よく考えてみればその同質性に気づく。無法者を生む背景は考慮せず異物として排除するという意味で両者は本質的に同じだ。

アメリカの人種差別を題材の一つとして描くなら、モン族の不良に代表される怒りを抱えた者たちにこそ通じる映画でなければならないのではないか。
この映画は彼らの心には届きそうにない。

ではこの映画が嫌いなのかというとそうではない。
欠点のある映画が必ずしも魅力のない映画ということにはならない。むしろ「グラン・トリノ」は十分魅力的な映画と言っていいのだと思う。ユーモアも健在だ。

だいたいもうおじいちゃんやしちょっとぐらいまちがってもかまへんし。と、めちゃくちゃなことを言ってうやむやにしておく。

最大の美点はイーストウッド演じるコワルスキーを人種差別的な人物として描いたことだ。アメリカの白人の心の底に、そしてイーストウッド自身にも潜む根深い差別意識に向き合っていることがこの映画に特別な価値を与えているように思う。

エンドロールでクリントイースト・ウッドの歌声が流れ、その背景に大きな並木の続く海沿いの道が映し出された。どうして海なのかよく分からなかったが、その風景になぜだか心惹かれた。

追記
書いてからふと 「グラン・トリノ 西部劇」 で検索してみたら望む文章が先頭にヒットした。
http://editorsnote.cocolog-nifty.com/days_of_books_films_jazz/2009/05/post-eaea.html
「Days of Books, Films & Jazz 編集者日々のコラム」というブログの「西部劇としてのグラン・トリノ」という文章がとてもいい。
さすが文章のプロ。豊富な知識を背景に実に分かりやすく書かれているので是非一読をおすすめする。

これを読むと、僕のように違和感を持つ人間がいるのもおそらくは承知でイーストウッドは西部劇をやろうとしたのだということが得心できる。
大きな機会を与えてくれた西部劇への感謝が、少々独りよがりに思えるヒロイズムの意味なんだろう。
最後に死んでしまうことの意味は、「男らしさ」が死んだことに自覚的であるということだろう。
それでも「男らしさ」を描いたのは、「男らしさ」は死んだが、そういう時代を否定するつもりもそう生きたことを後悔するつもりもない。ということだろう

向き合おうとしている内容に対してこの映画の構造は少し幼稚すぎないか、と感じたのはつまりそういうことだ。

結局のところ僕がこの映画に批判的であることには変わりないが、結果的にイーストウッドの長い映画人生を貫くテーマにもなった「男らしさ」とか「ヒロイズム」によい死に場所を与えたのだと考えればこの映画の味わいはさらに深く滋味を帯びてくるようにも思える。

まあとにかく、もうおじいちゃんやしな、なんでも好きにやってええし。

どこか生気のない街の様子を際だたせるように地面を白くとばした撮影が印象的だったがそのことも見逃さず簡潔に書いてある。ちょっと引用しとく。
ーーーーーーーーーーーーーー
イーストウッド映画の常連カメラマン、バート・スターンの撮影も相変わらず素晴らしい。デトロイト郊外の小都市。明るい光の下で白々と荒廃した街の風景と、ウォルトの家の地下室にたちこめる闇が対照的だ
ーーーーーーーーーーーーーー

エンドロールバックがなんで海なんやろって思ってたのも解決。エリー湖らしい。デトロイトやし。わははは。

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この記事へのコメント

  • ヒロちゅー

    お久です。「グラントリノ」もう二回見ました。二回目は、クリントとほぼ同い年のオヤジとです。僕的には、クリント俳優人生の締めくくりに相応しい、最良の脚本に恵まれた(だから出たやろけど)良作と思う。特にラストの息子カイルが作った切ない曲をシワガレた声で聞かせるシークエンスに体が震える。グラントリノのトリノさえ、彼のマカロニ・イタリアへのサンクスであり、いろんな感謝と優しさの詰まった映画ですよ。大目に見てやってなも。
    2009年05月07日 15:56
  • isoya

    ほんまにそうやねえ。
    イースト・ウッドが最期に見せる男気にいちいち文句付けへん方がよかったかもしれん。愛すればゆえつい書いちゃったと、大目に見てやってください。
    みんなに愛されてる彼は幸せや。
    2009年05月07日 18:46

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